脱走 Re:RIse(活字版)


第8章 警察の捜索

7月29日の午前9時半。岐阜県高山市。市役所近くにある公園、ポッポ公園前の駐車場にとめてある車の中で、警官2人が疲れ果てていた。

「…これで、全部ですか、先輩…?」

「…ああ、自転車で行ける範囲は、全部見て回った。」

「ここまで回って、行方不明者どころか手がかりすら発見できないなんて…。」

「…ここまで来れば、公共交通機関でどっか遠くへ行った、としか考えられないな…。」

「…しかし、市外、はたまた県外に彼とつながりがある人物なんて、書いてありませんよ…。」

「…この調査書に書いてあることは、彼の情報のほんの一部だ。もう少し踏み込んだ個人情報があれば、もう少し絞り込めるのだが…。」

「…となると、市役所に行って、個人票を請求する必要がありますね。」

「それしかないな。じゃ、行くか。ここからなら市役所は歩いていける距離だからな。」

「…わかりました。行きましょう。」

警官は車のドアを開けた。

 

高山市裁判所付近。そこを、先程の警官2人が歩いていた。

「…しかし、今回の捜索は厳しいですね。このまま、零士事件の再来になったら、厄介ですね。」

「ああ。去年、下呂駅の防犯カメラに映ったのを最後に行方をくらませた人物がいたな。」

「まだ行方不明者リストにある、澤・零士ですね。」

「動機も、手がかりも一切なしの奇妙な未解決事件だ。だが、それに比べれば今回は楽そうだ。」

「これだけ、手がかりが揃っていますからね。」

「ああ。真相を掴むためにも、市役所へ急ぐぞ。」

「はい。」

2人は歩いていった。

 

「はい、少々お待ちください。」

市役所に着いた警官たちは、事情を話し、役所の人間に資料を用意してもらっている。

「お待たせいたしました、こちらでございます。」

2人が個人票をまじまじと見る異様な光景が繰り広げられていた。

「これが…」

「あ、ここですここ。親戚について書かれています。」

そこには、母方の親戚について、こう書かれていた。

「親戚有り、増田優子の弟 増田健介及びその妻の増田彩希 住所は東京都新宿区3丁目623番地」

「増田優子って誰です?」

「彼の母親だ。そして、彼女の弟が、東京住まいか…。」

警官が改まってこう言う。

「ご協力ありがとうございました。この紙は持っててよろしいですか?」

「ええ、構いませんが、あとでシュレッダーにかけておいてくださいね。」

2人が立ち去っていった。

 

「先輩、何か分かったんですか?」

「ああ、これで彼の目的地が分かったぞ。」

「本当ですか?」

「ああ。どおりで、これまでの我々の捜索で見つからん訳だ。」

「じゃ、彼の目的地はどこです?」

「それはズバリ、母親の弟の住む場所、すなわち東京だ。」

「な、なるほど。県外であれば、父親や、我々の捜索網をくぐり抜けることができますからね。でも、それなら、静岡に住んでる親戚でも良かったのでは?」

「確かにそうだ。だが、よく見てみろ。そっちは父方の親戚だ。3日前に怒られた父親の追跡に引っかかる。こっちなら、父親の追跡にも引っかからないし、我々の追跡もくぐり抜けることができる。」

「な、なるほど。」

その時、1人の警官の携帯がなった。電話にでる。

「もしもし?」

『野口さん、清水春樹さんからの通報です!』

「何?」

今日聞き込みをした 勉の親友、清水春樹だ。やはり、親友が行方不明だったから、いても立ってもいられなかったのだろう。やはり、独自に 勉を捜索していたのか。

『駅前の東進衛星予備校の駐輪場で勉の自転車を発見したとのことです!』

「何?」

『そちらはどうですか?』

「こちらは、ようやく手がかりを掴んだところだ。わかった、ありがとう。」

電話が切れる。

「先輩、一体何だったんですか?」

「新情報だ。駅前の東進衛星予備校で、彼の自転車が発見されたらしい。」

「え、ってことは…。」

「ああ、公共交通機関で東京を目指している、ということだ。よし、行くぞ。」

「え、行くって、どこですか!?」

「高山駅だ。防犯カメラに、彼の姿が映っているかもしれない。彼がどの交通手段で行っているのか特定するためだ。」

「わかりました!」

2人は駅の方へ走っていった。

 

「こちらです。」

高山駅では、我々警官が事情を話したところ、すぐさま防犯カメラの記録を見せてくれた。

防犯カメラにある、今日の午前6時11分の記録を見ると…。

「あ、来ました来ました。」

「動画が荒くて顔がわからんな。だが、これは、中学生くらいだとは推測できる。」

「…あっ、バスターミナルの方に向かっています。」

「バスターミナル?まさか、高速バスで東京に行っているとでも言うのか?」

近くにいた駅員が言う。

「だとすると厄介ですよ、これ。バスの中じゃ、電車や汽車の中みたいに係員が回る訳にはいきませんからね。」

警官が言う。

「でも、まだ諦めんぞ。相原、高山バスセンターの方へ連絡してくれ!」

「れ、連絡って…まさか!」

「とにかく頼む!」

「は、はい!」

警官の1人が携帯を取り出した。

 

「わかりました。少々お時間をいただきますか、新宿行きバスにお繋ぎいたしましょう。」

たかやまバスセンターに到着するや否や、事情を説明すると聞いてくれた。今から、バスの方に連絡を入れるとのことだ。

「繋がりました。事情の説明をお願いします。」

電話が警官に渡される。

「もしもし、高山警察署の野口と申します。現在、こちらで増田勉という人が行方不明になりまして…。」

このとき、時計は11時を指していた。


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