7時45分。
もうとっくに平湯を過ぎ、乗客の入れ替えこそあったものの、相変わらず満席のままだったバス車内。
私、柚原花音は、隣の彼にお礼を言い出せずにいる。
実は、ご飯を持ってきておらず、さらに寝坊が原因で朝ごはんも食べておらず、お腹が減っていた私にとって、カップラーメンを差し出してくれた隣の彼は、まさに救世主そのものだった。当初は遠慮したが、やはり体は嘘をつかず、再びお腹か鳴り、私はやむを得ず彼のカップラーメンを頂いた。しかし、ラーメン用のお湯まで用意しているなんて、まさに周到な準備だった。そしてラーメンを食べたのだが、隣の彼は、あれ以降何も言わず、スマホを触ったり、Switch Liteでゲームをしたり。現在はぼんやりと景色を眺めていた。一応ゴミは彼が持っていってくれたのだが、あれ以降何も言わないもんだから、こちらからも言いづらかった。
隣の彼を見る。やはり、景色をぼんやりと眺めている。しかし、その顔は、なんか憂鬱そうだった。
親切な彼。彼氏が欲しかった私にとって、出逢いを求めていた私にとって、これはチャンスでもあった。容姿も結構いいし、優しいし、静かな方で、私にとっては好きなタイプだった。でも…。
「どうしました?」
「え?」
しまった。そうこう考えていたら、いつの間にか彼をじっと見つめ続けていたようだ。これじゃまるでストーカーよ…。
「なにか、御用ですか?」
それでも、全く動じない彼。今しかないと思い、開き直って私はこう言った。
「さ、さっきは、誠に、ありがとうございました!」
どう…?彼の反応は?
「え、いきなりどうしたんですか?」
え、どういうこと?
「だ、だから、さっきのカップラーメンのことです…。」
彼が答えた。
「ああ、気にしないでください。昨日買いすぎただけですし。」
…すごい。全く、動じていないなんて。彼がさらに言う。
「それより大丈夫ですか、腹が減りすぎて疲れてる感じでしたが。」
「え、ええ、ありがとうございます。おかげさまで。でも、どうして私に?」
「腹が減りすぎて動けないあなたを、見ていられなかったんです。」
え、そういう人なの?ホント、優しいわね…。
…よし、千載一遇のチャンス!アプローチしてあげる!
私は、彼の手を無理矢理引っ張り出し、握手した。
「私、柚原花音って言うんです。あなたは?」
彼は少し驚いた様子だったが、こう答えた。
「…増田勉です。」
突然、隣の子が俺の手を無理矢理引っ張り出し、手を握られた。
唐突の握手。そして、隣の子が、こう言った。
「私、柚原花音って言うんです。あなたは?」
なぜ唐突の自己紹介。ただカップラーメンをあげただけなのに。
ま、かわいい子に迫られるのは、悪くはないが…。
俺は、こう答えた。
「…増田勉です。」
かのん、と名乗った女の子は、さらに質問を畳み掛けてきた。
「中学生ですよね?何年生です?」
俺は答える。
「…中2、ですが。」
「私と同じ!ここまで知り合ったなら、もう普通に、友達になりませんか?」
な、何だコレ…。さっきまで緊張していたみたいなのに、今ではここまで積極的って、これは一体…。かわいいから拒絶も出来ないし、これ、何かの罰ゲームか…?
…ああ、もう、勝手にしろ!
「…いいですよ!!」
花音が答える。
「やった!じゃ、これからあなたを、勉くんって呼ぶね!」
「べ、べんくん!?」
「私のことは、花音ちゃんって呼んでね!」
ちょ、勝手に話進めんなよ…。
「じゃ、これから、いーっぱい、勉くんのこと教えてね!私も、いっーぱい、私のこと教えてあげるから!」
「う、うん…。」
…家から脱走したら、今度はかわいい女の子に捕まるか。
「ホント、逃げ場ねぇな…。」
「聞こえてるよ?」
「なっ!?」
「逃げ場って、何?」
…こりゃ、親戚の家に行くまでに、クタクタになりそうだ…。
俺は、今後のことを考えると、とても気が重くなるのであった…。
TYPED Homepages
・ホーム
・創作小説
・コメント回答欄
・自己紹介
・お知らせ
・New TYPED Channelについて
・TYPED@について
・TYPED 2号機について
・ブログについて・コメント欄
提供元
・Amazon
・AliExpress
・ヨドバシカメラ
・UMIDIGI
・Xiaomi
・OPPO
・HUAWEI
・realme
・Blackview
・OUKITEL
・Apple
・Microsoft
・au by KDDI
・LinksMate
・docomo
・STAR Wi-Fi
・SoftBank
・Kyash
・楽天
・バンドルカード
・JR東海
・JR西日本
・富山地方鉄道
・JIMDO
あなたもジンドゥーで無料ホームページを。 無料新規登録は https://jp.jimdo.com から