脱走 Re:RIse(活字版)


第4章 脱走実行

ピピピピピ…

7月29日。少し小さめなアラームに、俺、増田勉は起こされた。4時15分。なんでこんなに早く起きたんだっけ…。

「そうだ」

脱走の日だ。そう自覚し、起き上がる。ギリギリまで充電しておいたスマホをとり、小さめの肩掛けカバンに入れる。そして、リビングまで行き、水筒を2本出す。一本にはお茶を入れ、もう一本には昨日調達したカップラーメン用の熱湯を注ぐ。

普段着に着替え、カバンと水筒を持つ。他のカバンは、既に自転車に搭載済みだ。

自転車の鍵を持ち、こっそり出かける。玄関を出て、静かにドアを閉める。新しいアパートのため、ドアがオートロック式だったのがせめてもの救いだ。だから、鍵を閉めてないことから、父親に怪しまれることはない。自動ドアを通り、自転車に鍵を入れ、自転車に乗った。

そして、俺は、脱走の第一歩を踏み出し、自転車を漕ぎ出した。

 

俺は、松倉中学校の真横を通って国道41号線に出たあと、ケーズデンキの方面に向かう。そして、すき家がある所で右に曲がり、街なかに入る。そして、商店街を通って古い町並みを一回りし、駅の方面へ行く。それが、俺のサイクリングコースであった。特に、ここまで朝早ければ、古い町並みも自転車で疾走できる。少しずつ、街は明るくなっていく。そうして、俺は、高山駅の近くのバスセンターに向かった。

 

午前6時10分ごろ。俺、増田勉の自転車が駅の近くの東進衛星予備校の駐輪場に現れた。駅の駐輪場は有料のためだ。そこに自転車を停めた俺は、多くの荷物を持ってバスセンターへ足を進めた。

もうすでにバスが待機していた。だが古川からの送迎バスを待機しており、それが到着しないと出発しないスケジュールだった。しかし、バスには乗れる。

俺はバスの下にある荷物置き場にリュックと大きいカバンを入れて、運転手に乗車券を見せたあと、1番後ろから2番目の右側の窓側の席に座った。運転手曰く、今日は予約でいっぱいのため、できるだけ席は開けてくれ、とのこと。だが早すぎたのか、今のところは空いている。

 

6時27分。

運転手の言っていた通り、平日の朝早くなのにかなり混み始めた。いくつか席は空いているが、このあとも乗車してくる人がいるからおそらく満席になるだろう。ちなみに俺の隣はまだ空いている。

アナウンスが鳴る。

「みなさん、本日は、高山発、新宿行き高速バスにご乗車いただき、誠にありがとうございます。このバスはこのあと、丹生川、平湯、八王子、新宿の順に停車いたします。このバスにはお手洗いもございますのでご安心ください。あと2分ほどで発車いたします。発車までしばらくお待ちください。」

 

6時半。

「まもなく発車します。」

そのアナウンスとともに、バスが動き出した。俺は、スマホを眺めている。

「本日は、濃飛高速バス、新宿行きにご乗車いただき、誠にありがとうございます。次は、丹生川です。丹生川からの発車は、6時47分を予定しております。」

もう、戻れない。後戻りは許されない。

そう自覚し、俺は席に体を沈ませた。

 


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