脱走 Re:RIse(活字版)


第10章 東京

7月29日午後12時。

東京都内を、走っている一台の高速バスがいた。

バス内でアナウンスが流れる。

「間もなく、終点、新宿です。お忘れ物のないようご留意ください。なお、当バスは渋滞等により11分遅れで運転しております。新宿への到着は12時11分頃になる予定です。」

「いよいよね、勉くん。」

「ああ。」

花音ちゃんの問いに、俺、増田勉は答える。

バスの中で偶然の出会いを果たした花音ちゃんと俺。途中でおきた最大の危機も花音ちゃんのとっさの機転で乗り切り、二人は親友以上の関係になりつつあった。当初の予定にはなかったが、人間の心を解放できはじめているし、うまくいけば父親からの脱走も実現できる。

本当に、ありがとう。

心から、俺はそう思った。

 

12時11分。

バスが新宿に着いた。俺たちも、荷物を回収して降りる。

「はあーっ、ほんっと東京は久しぶり!」

花音ちゃんの言葉に、俺も答える。

「花音ちゃんは1年ぶりだろ?俺に至ってはもう何年前に来たかもう覚えてないよ。」

「じゃあ、落ち着いたら東京見物と行く?」

「そうだね。」

「でも、勉くん も変わったわね。」

「なんでだ?」

「だって、最初はすごく静かで話しかけづらい人かと。」

「そっか、そんな風に見えてたのか。じゃあ、なんで話しかけてきたんだ?」

「だって、カップラーメンくれる人だから、優しくないはずがないって思ったから。」

「はは、なるほど。じゃ、花音ちゃんの兄貴のところへ案内してくれ。」

「じゃ、いっくよー!!」

花音ちゃんが走り出す。

「ちょ、ちょっと早いよ!俺、荷物重いんだから!ちょっと、待ってよー!」

人混みをかき分けて俺も追いかける。

 

花音ちゃんに案内されるがまま、進んでいく。しかし、この道…まさか…。

「なあ、目的地って、あの高層マンションか?」

わずかに見えているマンションを指す。

「そう、あれあれ。」

あのマンション…まさか…。

「俺の母さんの弟が住んでるマンションじゃないか!」

「え、そうなの?ってことは、あなたの当初の目的地…でも…」

「なんて偶然の一致なんだ…」

さらに足を進める。

 

「着いたよ。ここが、私のお兄ちゃんが住んでる部屋。」

そこは、4階に位置する部屋だった。ちなみに、俺の母の弟の部屋はこの真下だ。しかし、これも、なんて偶然の一致なんだ。

「ちょっと、待ってて。」

花音ちゃんがインターホンをおす。すぐさま、若い人が出てきた。社会人になりたて、って感じだ。

「来たよ、お兄ちゃん。」

先に話し出したのは、花音ちゃんだった。

「予定通りだな。まあ、ゆっくりしていってくれ。…って、後ろにいるこの人は?」

俺を指す。事情を説明しようとすると、また かのんちゃん がすかさず割り込む。

「私の彼氏。」

は?またまた、何を言っているんだ?

「お、そうか。ついにおまえにも彼氏が…」

「誤解です!!」

俺はすかさず言い返す。

花音ちゃんの兄貴がすかさず言う。

「いつも僕の妹がお世話になっております。こんな妹ですが、今後もどうぞよろしくお願いいたします。」

「ちょっと、こんな妹ってなによー。」

「だ、か、ら、誤解です!!」

かのんちゃんが話し出す。

「でも、ちょっと、複雑な事情が彼にはあるみたいなの。」

「…そうか。二人とも上がってくれ。」

俺たちは、部屋の中へ入っていった。

 

「僕は 柚原開斗です。いつも妹がお世話になっております。」

マンションの部屋内で、開斗、と名乗った男とかのんちゃん、そして俺が話している。

俺が答える。

「だから、誤解ですって…。増田勉です。」

すかさずかのんちゃん が話を始める。

「でね、彼は、こんな事情があるみたいなの。」

本来俺が話すべきことを、かのんちゃん は勝手に話し始めた。

 

「なんですって?…分かりました。ご協力ありがとうございました。」

午後1時半。高山市。警察署に戻った2人の警官に、東京警察から連絡が入った。べん 保護作戦の結果だ。

電話が切れる。

「先輩、どうでした?」

「それが、到着予想時刻になっても、彼は一向に現れなかったのだそうだ。もうこれ以上一人の子供のために人員を多数動員するのは出来ないと、向こうは言ってきた。」

「そうなんですか。しかし、それじゃ、彼の目的地は一体どこなんですか?」

「わからんな。これでは、彼の行方は追えないな。」

「これでは、零士事件の再来ですね。」

「振り出しに戻ったか…。」

「困ったものです。」

警官2人がため息をついた。


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