「ごらぁ!!」
打保勉は、家で怒鳴られていた。
僕の家は、学校から徒歩で約10分と近いところにある。一軒家だが、家はそれほど大きくない。
僕は今、少し言葉遣いが悪かっただけで怒られている。「ぼく」を「オレ」と言っただけで。
不思議に思うかもしれないが、実はこれは今回に限ったことではない。僕の父は、機嫌が悪ければ、どんなに小さいことでも怒る。それも激しく。また両親の中も悪いため、いつの間にか僕は元気を失った。心の傷に触れないようにするため、周りとあまり喋らないようにしたのだ。結果、周りから「ぼんやりしている」とよく言われる。
どんどんヒートアップしていく。僕はいつものことだと思い、しっかり聞いているふりをして聞き流していた。だが、突然放たれた言葉が僕の心の傷を深くえぐり取った。
「なめてんじゃねぇぞ。こんな子なんていらねぇ。今すぐ死ね!!」
思わず僕はぞくりとしたが、この声は母に届いているはずがない。ここは父の部屋。母の反対を押し切って父の部屋は防音構造にしていたため、音はすべて壁に吸収されてしまう。
僕は思わず逃げ出した。「待てよ!」と父が言うが、お構いなしに自分の部屋に逃げ込み、強くドアを閉めた。そして内側から南京錠で鍵をかけた。その南京錠は100円ショップで買ったものだが、強固なことには変わりない。父親がひっきりなしにドアノブを回すが、ドアは開かなかった。
ようやく父親は立ち去ったようだ。足音が遠ざかっていく。僕はリラックスするつもりで、自分のテレビに電源を入れた。
フルセグ付きDVDプレイヤー。1万以上する代物で、じいちゃんばあちゃんが買ってくれた。父はあんなんだが、母は僕にやさしく、じいちゃんばあちゃんは買える範囲なら何でも買ってくれる。このフルセグ付きDVDプレイヤーもその一つで、余談だが充電して屋外でも使える。また、じいちゃんはその他にも電気スタンドやラジオチューナーも買ってくれた。
プレイヤーの隣にあるゲーム機もじいちゃんが買ってくれたもので、名は「ニンテンドー3DS」。ソフトもいくつかある。
充電台にあるのはスマートフォン。いわゆる格安スマホってやつで、母が連絡用に買ってくれた。とはいっても制限がかかっているため、フィルタリングがありゲームもできないが。
これだけのものを見て、ふと思った。貯金箱にためてある3万円も一緒に使えば、脱走できるかもしれない、と。
時間を確認すると、今日は2016年4月4日の夜。明日から学校か…。そう思った矢先、僕はテレビをつけたまま深い眠りの底へと落ちていった。
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