脱走 Re:RIse(活字版)


第6章 事件発生

6時50分ごろ、たかやま市内警察署。警察署内の所長室に、2人の警官が呼び出されていた。

「野口くんと、相原くんだな。」

所長の言葉に、警官が答える。

「はい。直々に捜査を頼みたい事件って、なんですか?」

「実は、先程通報があってな。高山市内のとあるアパートで、1人の中学生が行方不明になったそうだ。通報してきたのは母親だ。寝るときにはいたその中学生が、気がついたら消えてたんだと。詳しいことはこの調査書にまとめてある。2人でこの中学生の捜索をしてくれないか。いざって時には、応援を呼んでくれても構わん。頼んだぞ。」

『了解しました!』

警官2人が返事した。

 

「なんか、厄介な事件がきましたね、先輩。」

「そうか?」

調査書を見ている2人の警官が話している。

「以前にもこういう事件があって、未だにその人は発見されてないじゃないですか。」

「それは下呂市の話だろ?それより、現時点での情報を見てみるぞ。」

「わかりました。」

後輩が情報を読み上げる。

「行方不明者、増田勉。松倉中学校に通う2年生。現在夏休み。クラスでは目立たない存在で、友達は確認してる限りでは1人、と。」

さらに読み上げる。

「行方不明時の状況は、寝る時にはいた勉が、起きたら行方不明。勉の私物がほぼごっそり消えていた。そして…。」

「3日前に父親が彼に怒っており、家出の可能性あり、か。」

「家出、ですか。」

「3日前に父親が彼に怒った、ってのが気になるところだ。だが、本当に家出なのかも現時点ではわからん。もう少し情報を集めないと、なんとも言えないな。」

「じゃ、これから親に聞き込みに行きます?」

「いや、所長の話では、親が知っていることはこれだけ、なのだそうだ。」

「親なのに、何も知らないんですか。」

「他人どころか、親にも口をきかなかった可能性もあるな。となると、唯一の手がかりは、この友人だけか。」

「清水春樹さんですか…。確かに、友人なら、親にも見せていない一面を見れるかも、ですね。」

「よし、はるき のところに聞き込みに行くぞ。」

「はい。」

警官2人が立ち上がった。このとき、時刻は7時45分を指していた。

 

朝8時。

ピンポーン。

僕、清水春樹は、家でご飯を食べていた。親はもうすでに仕事に行っている。

昨日、勉に連絡して以来、まったく返事がない。今日は来れないのだろうか?それなら一言言ってくれればよかったのに…。

ピンポーン。

まったく、何だ朝から。一応出とくか。インターホンのマイクボタンを押す。

「はーい、新聞とか宗教とかは間に合ってますよ、っと。」

カメラの画像が表示される。

「…え?」

警官が2人いた。警察手帳を見せてくる。

「すみません、こちら、高山警察署の者です。あなたに聞き込みしたいことがありましてー。」

 

なぜか、僕は、家の前で、警察に聞き込みされている。どういうことだ?

僕は問う。

「何かあったんですか?」

警官が答える。

「実は、辛い話なのだが、君の友達の 増田勉くんが行方不明になっている。そこで、君に聞きたいことがある。勉くんを、迅速に見つけるためにも。」

「え…?」

あの、勉が、行方不明?なんでだよ。

「きみは、何か知っているかな?」

勉のためだ。正直に答えた。

「特には知りません。」

「では、変わったことは?」

「そうですね…昨日、『一緒にサイクリングしないか』って誘ったんですが、いつもなら快諾するのに、昨日は『考えとく』って言ったあと、全く連絡が取れなくて…。」

「…サイクリングが、趣味なのかね?」

「はい。僕との共通の趣味なんです。」

「…わかった。聞きたいことは以上だ。協力してくれてありがとう。」

「は、はい。ありがとうございました。」

警官2人が立ち去っていった。

「なんだよ、もう…」

しかし、気になることがあった。勉が、行方不明とは、一体?

僕は、家に入った。

 

車の中で、警官2人が話している。

「有力な手がかりはなしですか。」

「いや、これではっきりした。やはり、昨日変わったことがあった。ということは、家出の可能性は極めて高いな。」

「そうですね。では、どうします?」

「彼は、サイクリングが趣味だと言っていた。ということは、頻繁に自転車を移動手段にしていると見て取れる。よし、たかやま市内のますだの姓とうつぼの姓の家を訪問して彼がいないか聞いて回るぞ。」

「無茶ですよ、たかやま市内のますだの姓とうつぼの姓の家を片っ端から訪問するなんて。それに、増田はまだしも、打保はなんです?」

「お前、調査書をよく見てないのか?父親の旧姓が打保なんだよ。だから、増田の家と打保の家の中に必ず、祖父母の家があるはずだ。それに、松倉中学校から自転車で行ける範囲を調べるって話だ。」

「確かに、家出で祖父母の家に行ってるというのは典型的な例ですね。友達の家にもいませんでしたし。」

「よし、すぐ行くぞ。」

警官は車のエンジンを始動させた。


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