脱走 Re:RIse(活字版)


第2章 脱走準備

7月28日。

ピピピピピ…

「うーん…」

アラームに起こされ、俺、増田勉は起きる。

「…寝坊したな…」

こうだから夏休みは…。学校がない分、時間に余裕があるから、どうしても長く寝てしまう。もう7時ではないか。母親もクソ父親ももう仕事に行ってしまった。

ピロン。

なんだ、こんな時間に。UMIDIGI F2の画面を見る。ラインの通知だった。送り主は、清水春樹だった。口数の少ない俺の唯一の友人だ。

『明日、サイクリングで第八の方まで行かないか?なんか、新しい店が出来るんだってよ。』

とりあえずこう返信。

『考えとく。行けそうならまた後で返事するよ』

…とは言ったものの、行くのかどうか…

「…脱走、するか。」

もうこんな生活は懲り懲りだ。このままでは、近々精神が崩壊しかねない。そうなるくらいなら、人間らしさを保つためにも、やってみる価値はありそうだ。

…計画、立てようか。

 

脱走の計画を立てるうえで忘れてはならないことがある。ノートを広げながら、彼はそう思う。小学4年生の時の脱走の失敗だ。祖父母の家に行くのが一番手っ取り早くてらくなのだが、そうすると父親に簡単に捜索されて連れ戻されてしまう。

つまり、そう簡単には行けない場所に潜り込む必要があるのだ。

幸い、3万円はある。だから、公共交通も使う出立てもある。

しかし、どこへ行くものか…。遠くて、俺にとって近い場所…。1番最初に思いついたのは、父方の親戚の家だ。静岡に豪邸を構えるほどの金持ちのはずだ。だが、そこは、父方であるから、父親が簡単に干渉できる。危険だ。

となると、行けるのは母方の方に絞られる。だが、母方の方はみんな近い場所に住んでいる。どうしたものか…。

「あ、そうだ」

確か、東京の高層マンションに、母親の弟が住んでいたはずだ。既に結婚していて、まだ5才の子供がいたはずだ。立地的に遠いから、めったに会いに行けないが、よく電話する仲だ。だから、突然乗り込んでも行けるはずだ。

よし、目的地決まり。後は、そこに行く方法だな。

東京に行くのに1番オーソドックスなのは、鉄道だ。高山駅から特急ひだに乗り、名古屋まで向かう。そこからは、東海道新幹線を使って、東京駅まで行く。

さて、どうだ…?UMIDIGI F2で調べてみる。すると…。

片道だけでも合計14190円もかかるのか。手持ちの半分は飛んでくじゃないか。じゃ、富山駅まで行って、北陸新幹線を使うと…。

片道で合計13650円。まあ、多少は安くなったが…大して変わらない…。

じゃあ、美濃太田まで行って、そこから乗り換えて塩尻経由で東京は…。

合計14630円。かえって高くなってしまった。しかも8時間もかかる始末だ。鉄道は現実的ではない。じゃ、バスはどうだ?

検索してみる。すると…。

ろ、6500円!?や、安い…。しかも、片道6時間か…。これしかないな…。

このバスは、高山駅にほど近いバスセンターを出て、丹生川、平湯に止まり、松本経由で、八王子、そして新宿に行く。新宿からなら、目的地も近い。

これしかない。それじゃ、早速予約だ。だが…ウェブ予約は使えない。クレジットカードとか、デビットカードなんて持っていないからだ。現金で払うには、コンビニ決済しかない。

…春樹には申し訳ないことをしたが、俺は明日東京へ行くよ…。

 

次は必要なものを洗い出す。向こうに住むことも考えなければならないから、かなりの荷物になる。

とりあえず、俺が持っているカバンは、学校で使っている大容量リュックと、小学5年生の乗鞍青少年交流の家へのお泊り遠足のときに調達した大容量肩掛けカバン、普段の外出に使う小さめの肩掛けカバンだけだ。

とりあえず、大容量肩掛けカバンに物を入れていく。明日は使わない物、着換えと充電器、教科書だ。しかし、教科書が予想以上に多く、教科書と充電器で埋まってしまった。

リュックの方に、制服、着換えを入れてみる。うん、まだ入る。簡単な薬やゲームソフトも入った。そして小さめの肩掛けカバンには、いつもどおり、スマホと財布、モバイルバッテリー、小型コード、Switch Lite。よし、これで必要なものは全部揃った。あと足りないのは、当日の食料と飲料だ。飲料は、今日の夜か明日の早朝にでも水筒に入れて持ち出せばいい。とりあえず、今から買わなければならないモノは、食料、バスの乗車券だ。この2つでいい。

 

よし、明日の計画は完成した。明日は、6時半のバスに乗って東京に行く。だが、この時間は母親も父親も起きている。そこで、4時頃に起き、5時までに出発する。その間サイクリングで暇を潰し、6時15分頃にバスセンターまで行く。そしてバスに乗り、着いたら親戚の家へ向かう。

完璧だ。父親は朝起きても自分の部屋で準備して勝手に行くから、まずバレることはない。

とりあえず、今は必要な物の調達だ。彼は、小さめの手提げカバンを持って、自転車の鍵を持ち、早速外出して行った。


目次に戻る

次の章を読む

前の章を読む