脱走 Re:RIse(活字版)


第12章 養子縁組

何か、光が差し込んできた。

そう、俺、増田勉は思った。もう朝か?だんだんと、体の感覚がはっきりしていく。

それと同時に、謎の圧迫感が感じられてきた。

なんか、体が重い。まるで、人が1人乗っている感じだ。しかも、女の子独特の暖かさがある。

あれ、女の子…?まさか。

目を開けてみる。そこには、俺の体に乗っかった、花音ちゃんがいた。

「お、やっと起きた。おはよう。」

花音ちゃんが、笑顔を浮かべる。ん?俺の体の上に、布団越しではあるものの、花音ちゃんが乗っている…?

「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!。」

 

7月30日午前7時半。俺、増田勉は、目覚めた。花音ちゃんが俺の上に乗っかっていたという、異常な状況で。とりあえず俺は洗面台で顔を洗ったあと、花音ちゃんに口答えする。

「ちょっ、なんで俺の上に乗ってたんだよ!!」

花音ちゃんも答える。

「んー…勉くんを起こすため、かな。」

「だからって俺の上に乗ることはないだろ!?もっと他に起こす方法があっただろう!?。」

「だって起きなかったんだもん。」

いや、嘘だな…。起こしたのなら、一度でも目が覚めるはずだ。

さらに 花音ちゃんが畳み掛ける。

「それなら、キスで起こしたほうが良かった?」

「そんなこと、勝手にするんじゃねぇぞー!!!!」

はー、何だコレ。なんで朝から 花音ちゃんにドキドキさせられてるんだろう。

「…そういや、開斗さんは?」

かのんちゃん が答える。

「仕事に行っちゃったよ。そして、大ニュース!」

「一体、なんだ?」

「今日の朝、お兄ちゃんが、私の親にあなたのこと相談したのだけれど、事情を話したら、OKだって!あなたを、養子にしてくれるって!」

「は、はぁ!?」

「今から 勉くんの親に交渉に行って、その後正式な手続きをしたら、晴れて私たちは姉弟よ!これから、ずっと一緒にいられるんだよ!」

なに、俺の今後に関わる話を勝手にすすめてんだ?俺は問う。

「しかし、俺の了承もなしに、よくそっちの親は俺を養子にする気になったな。」

「だって、私、勉くんが好きだもん。」

「え?????????」

「勉くんは私の彼氏で、お婿さんになる人だから、だからどちらにしても私たちの家に来ることになるんだから、私は勉くんを守りたいって言ったの。」

「よく冗談でそんなこと言えたな。」

「冗談じゃないもん。」

「え?そんな、俺をからかわないでくれよ。」

「からかってないもん。」

「ちょ、そんな、ドキドキさせないでよ。…それより、それで、親はなんて?」

「喜んでたよ。結婚の予約おめでとうって。」

「ちょ、誤解だ!!」

「ね、それよりさ。」

「…なんだよ?」

花音ちゃんは、こういった。

「いま、私たち、二人きりだよね?」

「…だから、何?」

「さっき、私で、ドキドキしてくれたって、言ったよね?」

…あ。あちゃ~、いつの間に本音を言っちゃってたみたいだ。…あれ、本音?俺の、本音って?一体、なんだ?

さらに花音ちゃんが畳み掛ける。

「…これから、もっと恋人らしいこと、しようね!」

唐突な言葉に、俺は戸惑う。そして。

「ええええええええええええええええええええ!?」

「じゃ、まずは、朝ごはんを食べよう。ラブラブな感じで!」

「ま、待ってくれ!!」

「じゃ、食べよ!」

花音ちゃんに、手をつかまれる。

「ちょ、放してくれよ!!」

「本当はうれしいんでしょ?じゃ、行くよ!」

「わああ、誰か助けてくれーー!」

ああ、こりゃ、今日も、どっと疲れそうだ。

俺は、今後のことを思うと、気が重くなるのであった。

 

7月30日、午後1時半。岐阜県高山市内警察署。パソコンにかじりついている2人の警官がいた。勉の捜索を任されている2人の警官だ。

「先輩、もう止めましょう。ネットでいくら探したって、彼の痕跡すら見つけられないじゃないですか。」

「いや、捜索が振り出しに戻った以上、草の根から調べていくしかない。やるしかないんだよ。」

「…わかりました。もう少し粘りますか。」

そうして、ネットで勉の痕跡を探していた時。

誰かが、この警官2人を呼んだ。

「おーい、野口さん、相原さん。所長がお呼びだぞ。」

2人の警官は、所長室に向かった。

 

高山警察署、所長室。

所長が、喋る。

「どうかね、勉の捜索状況は。」

「はい、以前の報告と同様、家出の可能性は高い、ということ以外は何も。」

「…すみません、手掛かりも発見できなくて。」

「いや、もうその必要はない。」

「所長、どういうことです?」

「それが、勉が見つかった、との連絡が、先ほど、市役所から入ったんだ。」

「え、見つかったって、どこでですか?」

「それが、行方がわかったわけじゃないんだ。昼頃、市役所に、勉の母親と別の子の親が現れたんだ。そして、その別の子の親は、勉を、養子にしたいと、言ってきたそうだ。」

「勉を、養子に?なぜ、行方不明の子を?」

「それが、別の子の親の社会人の子が、そこへ遊びに行った子供の妹とともに、偶然出会った勉を保護したのだそうだ。」

「そうだったんですか!では、勉を養子に希望する親は、やはり勉とつながりが深いんですか?」

「それが、個人情報保護の観点から聞かなかったが、まったく縁もゆかりもない親だったそうだ。」

「なんですかそれ。で、どうなったんです?」

「すでに 勉の父親と離婚し、親権が勉の母親に譲られていて、その母親の同意を得た別の子の親は、正式に養子縁組の手続きを終えたとのことだ。」

「え、てことは…」

「ああ。べん を捜索する必要はない、任務は完了だ。君たちは、所定のパトロールに戻りたまえ。」

「了解しました!」

警官2人が、所長室から立ち去っていった。

こうして、増田勉行方不明事件は解決し、幕を閉じたのであった。

 

俺、増田勉は、まんまと、花音ちゃんの策略にのせられたようだ。

午後1時10分頃。俺は、花音ちゃんがトイレに行っている間、こう考えていた。

当初は、はっきり言っていやだった花音ちゃんとの恋人プレイ。かのんちゃん のことは嫌いじゃないし、むしろ好きだ。でもそれは、あくまで、親友、としてであって、恋人として、ではなかった。にもかかわらず、ご飯は「あーん」しあいっこになったし、その後も、あれや、これやをやって…。あまりにも多すぎるので、割愛するが、当初は嫌だった。しかし、花音ちゃんと間近で触れ合っていくうちに、俺の心の中にあった「ポカポカ」が大きくなり、我慢できないレベルまで達してしまった。そして、俺の頭の中も、花音ちゃんのことで頭がいっぱいだった。もう 花音ちゃんなしでは、生きていけない。花音ちゃんと、ずっと一緒にいたい。その思いが、俺の意思に反して増殖し、ついに、あふれ出してしまった。これが、恋、というものなのだろうか。もう、花音ちゃんを求めて暴走する心を、抑えられなくなった。そうして、ついに、俺は、察してしまった。もう、我慢する必要はない。もう、あの父親はいないのだ。心のままに、動けばいいのだ。花音ちゃんを、好きでいていいのだ。大好きでいいのだ。愛していいのだ。

そして、ようやく、俺の本音を知った。

…俺は、花音ちゃん を、愛しているのだと。大好きなのだと。ずっと、一緒にいたいのだと。

おそらく、こう思わせるのが、花音ちゃんの戦略だったのだろう。そう、表面上はわかっていても、もう、こらえられない。こらえる必要もない。

花音ちゃん、大好きだ。

その時、突然、スマホがなった。LINEの通知だ。

一体誰から。スマホのロックを解除し、通知バーをおろす。母親からのLINEだった。だが、そこには、驚愕の内容が書かれていた。

「勉、おめでとう。ちょっとばかし早いけど、もう、運命の人を、見つけたのね。父親との離婚裁判は意外に早くすんで、親権も私のものになったわ。そしたら、勉を養子に迎えたい、って親が現れて。当初は考えものだったわ。だって、子供を手放すことになるんですもの。でも、事情を聴いたら、あなたと花音って子がラブラブだっていうじゃない?お互い、両想いでさ。あなたが人見知りだってことは知ってたから、よっぽどな子なんだねって思ったの。その子の親の頼みだったから、あなたを、柚原家に預けることにしたのよ。まるで、子供が婿に行くって感じでね。連絡も取れなかったから、勝手に手続きをしちゃって申し訳ないけど、これがあなたが選んだ道なら、私は全力で応援するわ。今までありがとう。これからも幸せにね。」

俺は、思わず、こう呟いた。

「全く、母さんまで、誤解しちゃって。」

だが、俺はもう、花音ちゃんが大好きなのだ。異論はなかった。

向こうから、ドアがあいた音がした。花音ちゃんが出てきたのだろう。

花音ちゃんが走りこんできた。花音ちゃんのとこにも連絡がきたのかな?

「勉くん、聞いて!さっき連絡が来たけど、私の親が、勉くんを養子として迎え入れてくれるって!」

俺は、小さく、頷いた。

花音ちゃんがふしぎそうにする。

「あれ、嬉しくないの?」

「いや、もう知ってる。俺のお母さんからも、そう、連絡がきたから。」

「そう、じゃあ…!」

俺は、静かに花音ちゃんに駆け寄り、抱きついた。

「どうしたの、急に。」

花音ちゃんは驚いているようだ。あれだけ散々抱きついてきたくせに。

「うれしいよ、花音ちゃん。俺、いいや、僕は、花音ちゃんが、大好きだから。」

「本当...?」

「本当さ。からかってもいないよ。花音ちゃん、これから、ずうっと、一緒に、いてくれる?」

しばしの沈黙のあと。

「もちろんよ、勉くん!」

2人は、まるで、一つの何かに見えるほど、密着して抱きついていた。ふたりとも、人生で一番、最高にうれしい顔をしていた。

このとき、増田勉、いいや、『柚原』勉は、本当の自分を取り戻していた。

花音への、愛情を手に入れて。


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